乞うとは?


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乞うとは?

[ 108] 私の読書ライブラリー
[引用サイト]  http://tadaokik.hiho.jp/dokusho/12.htm

‐山本哲士・水上勉・大野晋・樺山紘一・黒田末寿・佐藤富雄・谷川健一・日高敏隆・福井憲彦・外間守善・山折哲雄・吉見俊哉著
本書の企画にあたって、中心的な役割をした山本哲士氏は、「『乞う』だけを独立して意
識的にとりだしてみると『乞食』のように、いやしめられ、禁じられる行為になっていま
す」と言う。水上勉氏は、「子供の頃、親から乞食するような人間になるな、と言いさとさ
れた」と述ぺ、「『乞う』という言葉から連想されることの多くは、乞食のことで、それゆ
え村にやってくる乞食をみて、さげすむ心が生じた」と述ぺる。ただし、水上氏は、、その
して、頼まれ事には応えない人を否定的に評価していた。その事に対して、今までほとん
ど疑問をもっていなかった。『乞う』行為は、人間として最後の止むを得ない行為だと認識
していた。誰にも依存しない自立した個人でありたいといった幻想を抱いていたのである。
本書では、「広い意味でとらえた『乞う』という行為は人間社会に共通してみられる、い
わぱ他者との関係性を積極的に求める行為」と、乞う行為を積極的に評価している。もと
より、この世に生まれてから『乞う』ことなしに、生きてこれなかったのは事実である。
母親に『乞う』ことを始めとし、父親、親戚、近所の人々、学校の先生や友人、会社の先輩
や同僚や後輩等様々な人々に『乞い』ながら、生きてきたと言えよう。親子・友人・先輩後輩
うした関係が全く失われることを考えてみれば、寒々とした人間関係が思い浮かぶだろう。
『教え』を乞いに行ける先生、必ずしも職務でない仕事を頼める後輩、引っ越しを頼める
友人などとの関係を考えてみれば、相手との親密さや信頼関係において、『乞う』ことが重
要な位置を占めていることがうかがえる。また、学校や社会の仲間同士、上司や部下との
間、商談、筆者と編集者の執筆依頼など、そして外交関係、おそらくどんな場合をとって
みても、ある人から相手に対する『乞う』関係があることにも気づく。つまり、意識的・
無意識的にかかわらず、私達は乞うということをかなり日常の中で行っているのである。
と位置づけることができる。そして、『乞う』行為を積極的に行うことにより、今まで以上
の積極的な人生を実現できるかもしれない。『乞う』行為をうまくやることによって、人との
交流がうまくいくこともある。上手に乞い、乞われることのできる人は、他人との交流が
『(乞う)行為に関する意識調査』によれば一、自律性があると自認している者は乞う傾
係になろうとする対人態度をとる者は、そうでない者に比べて全般的に乞う傾向が強い。
五、友人数が多い者は、『ソト』の人間関係が豊かであると同時に、『乞う』こと(『乞われ
る』こと)を通してさらに関係を豊かにしている。この調査は、一九八六年七月〜九月に
かけて、一八歳以上の男女八六九人(首都圏および長野県の大学生四六六人、首都圏会社
この統計結果だけから、『乞う』行為が、人間関係を築く上で積極的な意味を持つなどと
は簡単に言えないかもしれない。私達が生きている中で、これらの統計結果から読み取れ
ることが、真実のように感じられるのも事実である。しかし、これらの事実をもう一度別
の角度から捉え直してみる必要があるのではないか。豊かな人間関係は、『乞う』行為がも
たらしたものではなく、乞う・乞われる関係ができあがった結果としてそうみえることか
私は、『乞う』ということは重要であるが、『乞う』行為が良好な人間関係の構築におい
て、必ずしも必要条件でないと思う。『乞う』ことによって、相手との関係性を確認し合う
ことはできたとしても、『乞う』行為によって、人間関係がうまくいくとは限らないだろう。
上手くいくかいかないかは、相手が『乞う』という行為をどうみるかにかかっていると言
えられる。『乞う』ことによって、人間関係がうまくいくようになるのではなく、ある程度
の人間関係が成立した上で、『乞う』ことが成り立ち、『乞う』『乞われる』関係がさらに深
まり、親密な関係へと持っていけるようになるのではないか。そのような意味において、『乞
う』行為は、人間関係の出発点にはならないように思われる。むしろ、人間関係をより良
好なものにするための潤滑油の役割が大きいのではないかと思う。潤滑油といってもあっ
てもなくてもよいものではなく、良好な関係を維持・発展させるためには必要不可欠なも
取ることができる。「乞う』行為は、自ら人間関係を求めようとする強い欲望の表現と捉え
ることも重要であろう。日常の人間関係において、そこそこの関係を作ることは、『乞う』
『乞われる』の関係なしでも成り立ち得るが、その関係をさらに深めたり、強めたりするの
には、その関係を望む側の強い欲求がなければうまくいかないだろう。その欲求の一つに
『乞う』という行為が存在するのではないだろうか。そうした意味で、『乞う』という行為
は、「乞われる」ことが受け身であるのに対して、自ら積極的に行える行為として、重要な
意味を持っていると考えられる。積極的な行偽として、相手に対して人間関係を求めてい
もう一つ重要なことは、『乞う』ことは、『乞われる」ことを前提とした行為でなければ、
人間関係の構築に対する意味を持ちえないと言うことである。つまり、『乞われる』という
行為に対しても積極的な意味を見出す必要があるだろう。乞い方と共に乞われ方も、重要
上手いから人間関係が良くなるのか、それとも良い人間関係があるから乞えるのか、必ず
しも決まってはいないだろう。良好な人間関係なしに乞うことができるであろうか。乞う
親密な人間関係においては、乞い、乞われる関係、頼み・頼まれる相互関係が暗黙のうち
う』ということを考え直し、自分の日常生活をもう一度考えてみる必要があると感じた。

 

[ 109] 愛を乞うひと - Kaz.Log ☞ Loft Cinema - Yahoo!ブログ
[引用サイト]  http://blogs.yahoo.co.jp/jkz203/15185723.html

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1975年、当時人気だったダウンタウン・ブギウギ・バンドのヒット曲『 港のヨーコ ヨコハマ ヨコスカ 』を映画化した同名作品で初めて観て以来 (観たのはずっと後)、大好きな女優、原田美枝子が鬼気迫る演技で母と娘の愛憎を演じたドラマです。
出演は、原田美枝子の他、野波麻帆、うじきつよし、熊谷真美、モロ師岡、中井貴一など。
早くに夫を亡くし、娘の深草(野波麻帆)とふたり暮らしの山岡照恵(原田美枝子)は、昭和29年に結核でこの世を去った台湾人の父・陳文雄(中井貴一)の遺骨を探していた。そんなある日、彼女の異父弟・武則(うじきつよし)が詐欺で捕まったという知らせが届く。30年ぶりの弟との再会に、照恵の脳裡に蘇ってきたのは、幸せだとは言い難い幼い頃の母親との関係だった。
文雄の死後、施設に預けられていた照恵を迎えに来たのは、かつて父によって引き離されたはずの母・豊子(原田美枝子/2役)だった・・・。 (goo映画より抜粋)
物語は遺骨を探す照恵と、母と暮らした戦後からの少女時代を交錯させながら描いています。
遺骨探しの過程で蘇る過去の記憶。それは少女時代に受けた、母・豊子からの凄まじい虐待。
映画はそんな過去から脱しきれない照恵の、いわゆる自分探しの物語でもある、と思います。
母から酷い虐待を受けながら、『 私が可愛いから引きとってくれたんじゃないの? 』と、母・豊子にすがりつく照恵。観ていて痛烈なぐらい、母に愛情を求める子供の照恵が哀しいです。
子が親に愛情を求めるのは人間として素直な感情ですが、ただ過保護に育てるのが愛情だと思う親たち。
この映画はそれとは対極にある親の姿ですが、子供も親も、まさに『愛を乞う』。そんな言葉がピッタリの作品です。
映画自体には、母親・豊子が何故あれほどまで娘に虐待を加えていたかについては詳しい説明がありませんが、あれは自分自身への行為だったのでしょう。母親の豊子自身も親の愛に恵まれず育ち、本当は弱い女性だった。いつも愛情に飢えていた女性だった。その弱さの裏返しの行為であった、そう解釈しました。
ラストの母娘の対面シーンの後の、照恵の涙と吹っ切れた顔が、この壮絶な映画の救いでしょう・・・。
子供時代の照恵を演じた3人の子役の少女も素晴らしい演技。それ以上に原田美枝子の迫力には驚嘆です。
物凄く重そうな作品ですね…。タイトルからして辛いです。この手の内容に弱い私です。
この映画、見たらつらくなりそう。でも最後に救いがありそうですね。。。私もあなたも、みんな人は【愛を乞う人】。相手に伝わるように愛を伝えて、受け取りやすいかたちで愛を受け取れたらいいのに。。。
公開当時も結構話題になってましたょね。結局観れてないのですが(^_^;)虐待はもちろん観て楽しいものではないけどねぇ。それでもチェックしておきたい映画かなぁ。ラストで連鎖を断ち切れるのだとしたら、そこまでの過程も見たいしねっ。
悲しくて切なくて、でもなんかなつかしい思いをしながら見ていました。あそこまでの虐待はないにせよ、子どもって何か知らそんな思いを経験したことあるんじゃないかと思いました。見てよかった映画ですが、2度見ることはできません・・・。
>ぽえこさん。そうですね、折檻シーンとかは観ていて辛い場面ですが、最後は気持ちの良い終わり方ですかね〜。どんな人間でも「愛」を求めて生きるものだと、この映画は教えてくれますよ。(T_T)
>あきさん。う〜ん、やっぱりテーマは、そう受け入れられるものじゃないけどねぇ〜。あっ、動物モノもダメなんや〜。^^;
>miyuさん。そうですね、当時この映画は日本アカデミー賞を総なめにした映画ですよね。結構話題になった作品でした〜。^^ 最後に救いのあるラストでしたが、その過程は結構観ていて興味深いよ。(^3^)
>まおさん。おっしゃるとうり、あそこまでは行かないけど、子供だったら誰しも経験がある事ですよね。あの戦後のセットなんかは、自分たちの世代じゃないけど、なんか懐かしさがあります。^^
おひさしぶり。定期休養?してました。この映画はとても好きです。決して軽い話ではないけれど、日本映画ならではの味わいがあったし、なんと言っても原田美枝子の存在感は抜群でしたね。
>定期休養でしたか〜。たっぷり英気を養ったようっすね。^^ この映画は原田美枝子の女優魂満開って感じでしたよね。たしかに重いけど、あと味は結構良かったですよね〜。^^
でーお。でぇぇぇおー♪のこっちゃんです(^o^)/子役も貴一っちゃんも國村さんも良かったけど、ぜーんび吹き飛ばしちゃうような原田さんの気迫に圧倒!「お母さん、泣いてもいい?」と娘に言う原田さんと一緒に泣いたこっちゃんでした。(つд⊂)ナカセルデー
この映画って1998年の日本アカデミー賞を11部門も獲得してるんですね。そんなことも知らずに観た映画ですが、とにもかくにも原田美枝子さんの演技魂に圧倒されます。観た後には大いに納得出来ることですが、彼女はこの映画で主演女優賞をもらっているのですね。正直、演技に対して、ここまでの気迫を持った女優さんだとは思ってもみませんでした。ビックリです。

 

[ 110] 【ことばをめぐる】(19)いとう,乞う,問う,沿う,のたまう
[引用サイト]  http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/ktb019.htm

ちょっと中学校の国語のおさらいになりますが、「五段活用」の動詞は、連用形に助詞の「て」などがつくと、いわゆる「音便」という変化を起こす場合があります。特に、「食わ(ない)・食い(ます)・食う・食う(とき)・食え(ば)・食お(う)」のように活用する「ワア行五段活用」の動詞は、「食いて」が「食って」になるような促音便を起こします。
ところが、この「ワア行五段」の動詞のなかには、例外的に、促音便ではなくウ音便を起こすものがあります。
敵である相手に教えを乞うていた期間は、ずいぶん長かった。(下田治美「なんてったって」)
冷害に強いコメよりも、高く売れる「きらら」に力を入れる農家が増えている。今回の凶作は、飽食ニッポンを問うているようにも見えた。(「朝日新聞」1993.10.16)
上の「乞うて」「問うて」は、ワア行五段動詞に「て」が付いたものです。機械的には「乞って」「問って」と促音便になるはずで、それゆえ単純なワープロで変換すると「乞うて」「問うて」が出ないこともあります。しかし、実際には促音便形はまず使われません。
「乞う」「問う」のほかに、「厭(いと)う」「負う」「沿う」「のたまう」などの連用形にもウ音便が観察されます。これは一方では促音便形もあって、ゆれているかのようです。
おっしゃる通りかもしれないが、それでは教員につきものの難儀をいとうてはいまいか。真の教育とは何を言うのか。四十五人を皆勉強のできる素行の立派な子供にしようというのか。(「朝日新聞」1984.11.1)
村山富市氏は、〔中略〕自ら防衛庁長宮を任命し、四兆六〇〇〇億円の防衛予算の執行に責任を負うただけでなく、(『日本の論点'95』久保亘)
が、旅客がさらに散歩をつづけて、道を百歩ばかり上ってゆくと、外観のかなりきれいな邸宅と、家にそうた鉄柵ごしにりっぱな庭園が眼につくにちがいない。(桑原武夫・生島遼一訳『赤と黒』)
あなたは面会にやってきた三氏に、こうのたもうたのです。(筒井康隆『将軍が目醒めた時』)
「乞う」「問う」は「乞うて」「問うて」でいいとしても、ほかは「厭うて」か「厭って」か、どちらを使うか迷うところです。
ワア行五段の動詞がウ音便をおこす理由は分かりにくいようです。ひとつ考えられるのは、動詞を活用した結果、もとの形態が分からなくなることを防ぐ気持ちがあるのではないかということです。「乞う」「問う」などというのは、実際の発音では [ko:] [to:] という長母音で発音されます。これが「乞って」「問って」になると、[kotte] [totte] に変わるのだから、もとの形と共通するのは [k] や [t] だけということになります。これでは頼りないので、「コーテ [ko:te]」「トーテ [to:te]」と長母音を保存するのではないか。
よく使われる動詞なら、原形と活用形がさほど一致しなくてもかまわないんです。「来る」と「来て」、「する」と「して」では、だいぶ変化していますが、とくに困ることはありません。ところが、「乞う」や「問う」の場合は、現代では「頼む」や「尋ねる」に言い換える場合が多く、それ自体はあまり聞かれなくなってしまった。まして「乞って」「問って」などと、連用形に促音便形を使うと、なおさら分かりにくくなるため、それを避けようとするのでしょう。 使用頻度ということでもう少しいえば、「追う」「負う」は、両方ともワア行五段の動詞ですが、「追う」はふだんよく使われるのに対し、「負う」の使われる局面は限られています。そこで、「追う」は「追って 」と活用するだけなのに対し、「負う」は、念のため、「負って」以外に「負うて」の形をもつのでしょう。
「厭う」のばあい、現代では似た意味の「嫌う」がよく使われるので、たまに「厭う」を使うときは、「厭って」よりも「厭うて」のほうが聴覚的には分かりやすいかもしれません。

 

[ 111] 2、側用人が殉死乞う
[引用サイト]  http://www.geocities.jp/kyoketu/6879.html

中陰の四十九日が五月五日に済んだ。これまでは宗玄をはじめとして、既西堂、金両堂、天授庵、聴松院、不二庵等の僧侶が勤行をしていたのである。
さて五月六日になったが、まだ殉死する人がぼつぼつある。殉死する本人や親兄弟妻子は言うまでもなく、なんの由縁もないものでも、京都から来るお針医と江戸から下る御上使との接待の用意なんぞはうわの空でしていて、ただ殉死のことばかり思っている。例年軒に葺く端午の菖蒲も摘まず、ましてや初幟の祝をする子のある家も、その子の生まれたことを忘れたようにして、静まり返っている。
殉死にはいつどうしてきまったともなく、自然に掟が出来ている。どれほど殿様を大切に思えばといって、誰でも勝手に殉死が出来るものではない。
泰平の世の江戸参勤のお供、いざ戦争というときの陣中へのお供と同じことで、死出の山三途の州のお供をするにもぜひ殿様のお許しを得なくてはならない。その許しもないのに死んでは、それは犬死である。武士は名聞が大切だから、犬死はしない。
敵陣に飛び込んで討死をするのは立派ではあるが、軍令にそむいて抜駈けをして死んでは功にはならない。それが犬死であると同じことで、お許しのないに殉死しては、これも犬死である。
たまにそういう人で犬死にならないのは、知遇を得た君臣の間に黙契があって、お許しはなくてもお許しがあったのと変らぬのである。仏涅槃ののちに起った大乗の教えは、仏のお許しはなかったが、過現未を通じて知らぬことのない仏は、そういう教えが出て来るものだと知って懸許しておいたものだとしてある。お許しがないのに殉死の出来るのは、金口で説かれると同じように、大乗の教えを説くようなものであろう。
そんならどうしてお許しを得るかというと、このたび殉死した人々の中の内藤長十郎元続が願った手段などがよい例である。長十即は平生忠利の机廻りの用を勤めて、格別のご懇意をこうむったもので、病床を離れずに介抱をしていた。もはや本復は覚束ないと、忠利が悟ったとき、長十郎に「末期が近うなったら、あの不二と書いてかけものある大文字の懸物を枕もとにかけてくれ」と言いつけておいた。三月十七日に容態が次第に重くなって、忠利が「あの懸物をかけえ」と言った。長十郎はそれをかけた。忠利はそれを一目見て、しばらく瞑目していた。それから忠利が「足がだるい」と言った。長十郎は掻巻の裾をしずかにまくって、忠利の足をさすりながら、忠利の顔をじっと見ると、忠利もじっと見返した。
「ご病気はいかにもご重体のようにはお見受け申しまするが、神仏の加護良薬の功験で、一日も早うご全快遊ばすようにと、祈願いたしておりまする。それでも万一と申すことがござりまする。もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎奴にお供を仰せつけられますように」
こう言いながら長十部は忠利の足をそっと持ち上げて、自分の額に押し当てて戴いた。目には涙が一ぱい浮かんでいた。
「それはいかんぞよ」こう言って忠利は今まで長十郎と顔を見合わせていたのに、半分寝返りをするように脇を向いた。
列座の者の中から、「弱輩の身をもって推参じゃ、控えたらよかろう」と言ったものがある。長十郎は当年十七歳である。
「どうぞ」喉につかえたような声で言って、長十郎は三度目に戴いた足をいつまでも額に当てて放さずにいた。
「情の剛い奴じゃな」声はおこって叱るようであったが、忠利はこの言葉とともに二度うなずいた。
長十郎は「はっ」と言って、両手で忠利の足を抱えたまま、床の背後にうつ伏して、しばらく動かずにいた。そのとき長十郎が心のうちには、非常な難所を通って往き着かなくてはならぬ所へ往き着いたような、力の弛みと心の落着きとが満ちあふれて、そのほかのことは何も意識に上らず、備後畳の上に涙のこぼれるのも知らなかった。
長十郎はまだ弱輩で何一つきわだった功績もなかったが、忠利は始終目をかけて側近く使っていた。酒が好きで、別人なら無礼のお咎めもありそうな失錯をしたことがあるのに、忠利は「あれは長十郎がしたのではない、酒がしたのじゃ」と言って笑っていた。それでその恩に報いなくてはならぬ、その過ちを償わなくてはならぬと思い込んでいた長十郎は、忠利の病気が重ってからは、その報謝と賠償との道は殉死のほかないとかたく信ずるようになった。しかし細かにこの男の心中に立ち入ってみると、自分の発意で殉死しなくてはならぬという心持ちのかたわら、人が自分を殉死するはずのものだと思っているに違いないから、自分は殉死を余儀なくせられていると、人にすがって死の方向へ進んで行くような心持ちが、ほとんど同じ強さに存在していた。反面から言うと、もし自分が殉死せずにいたら、恐ろしい屈辱を受けるに違いないと心配していたのである。こういう弱みのある長十郎ではあるが、死を怖れる念は微塵もない。それだからどうぞ殿様に殉死を許して戴こうという願望は、何物の障礙をもこうむらずにこの男の意志の全幅を領していたのである。
しばらくして長十郎は両手で持っている殿様の足に力がはいって少し踏み伸ばされるように感じた。これはまただるくおなりになったのだと思ったので、また最初のようにしずかにさすり始めた。このとき長十郎の心頭には老母と妻とのことが浮かんだ。そして殉死者の遺族が主家の優待を受けるということを考えて、それで己は家族を安穏な地位において、安んじて死ぬることが出来ると思った。それと同時に長十郎の顔は晴れ晴れした気色になった。

 

[ 112] Amazon.co.jp: 愛を乞うひと: DVD: 原田美枝子,野波麻帆,小日向文世,平山秀幸,下田治美,鄭義信
[引用サイト]  http://www.amazon.co.jp/a??a??a1?a??a?2a?¨-a??c?°c??a??a-?/dp/B00065UB0S

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下田治美の同名小説を映画化。幼児虐待という凄惨な記憶から逃げていた娘が50年のときを経て再び過去に対峙する、母と娘の愛憎を描いた人間ドラマ。 《監督》 平山秀幸 《製作》 藤原貞利、高井英幸、阿部忠道 《出演》 原田美枝子、野波麻帆、小日向文世、熊谷真実
   はやくに夫を亡くした照恵(原田美枝子)は、娘・深草(野波麻帆)が高校生になったのを機に、自分が幼い頃に死んだ父(中井貴一)の遺骨を捜す旅に出た。その最中、彼女はかつて父の死後自分を虐待し続けた母(原田美枝子)のことを思い出していく…。    母と娘の宿命、その切っても切れない深いきずなを3世代にわたって描いた平山秀幸監督によるヒューマン映画。原田美枝子が、まるで鬼のような母と聖女のような娘の二役を迫真の演技で臨んでおり、その対比が際立てば際立つほど、愛憎の深さも色濃くなっていく。虐待シーンの数々は、時に正視できないほどのインパクトがあるが、あえてそこを見せきることで、クライマックスの静かな感動がもたらされていく。時代を再現するため、観客にまったく気づかれないようなCG処理がされているあたりも好感が持てる。キネマ旬報ベストテン第1位および主演女優賞など、この年の映画賞を総なめした傑作。モントリオール映画祭では国際批評家連盟賞を受賞。(的田也寸志)
僕の知る限り、虐待関連の映画で、これほどに感動的で、美しい映画はありません。 親が自分を虐待してきた。だから親が心の底から憎い、でもそれと同じくらい親に愛されたい。しかし虐待する親は、虐待をするような人格なのであって、それは誰にも変えることはできない。いくら愛を求めても無理なものは無理。誰も他人に愛を強要することはできない。 それをいかに乗り越えるべきか?あるいは乗り越えるべきではないのか?この問いに一つの答えをそっと優しく示す、そんな映画だと思います。虐待に限らず、親子関係に興味のある方にはぜひお勧めします。
戦後の混乱の中で、力強く生きていく母親は、美しくも凄惨な面を持っている。日本領時代の台湾から来日し、混乱期の日本に生きる心優しい台湾青年との愛。彼との間に生まれた娘への異常なまでの虐待。その娘が家庭を持ち、同じく娘を産み、母親という立場になって、自分自身の生育を振り返る。そして、自分のアイデンティティ(この場合は父親のお骨)を探すために、娘と台湾へ行く。
虐待を受けて育った主人公とその鬼母、原田美枝子さんの演技がすごい。
また、どんな親であっても、不思議とその子供は親を求めてしまうという普遍を、ストリーの根底にしているため、考えさせられ、心も痛む。
キャスティングもとてもいい。

戦後の混乱期、街娼をして生きていたある女性(この映画の主人公の母親)は暴行現場を韓国出身の心優しい男性に助けられる。二人はやがて結婚し、娘ができる。しかし、女性は娘を愛することができずに、暴力を振るう。その虐待を見かねた夫は娘をつれて家を出る。夫の病死後、女性は娘を孤児院からひきとるが、その虐待は娘が社会人になって家をとびだすまで続く。やがて成長して家庭を持ち自分の子どもが高校生になったかつての娘は、長い音信不通になっていた母親探しの旅に出かける、という話。成長した主人公の(ひどい虐待を受けて育った)女性は、娘を大切に育てているし、娘は健康に育っている。これがこの映画の救いなのだが、これから考えるに、児童虐待は、苛酷な環境から受けるストレスのために精神面がついていけなくなってしまったなど、環境要因によるところが大きいものだと思う。だから、虐待の世代間連鎖は、自己の意思決定や意識変革があった場合ならびに外からの何らかのサポートがあった場合など理由は異なるかもしれないが、断ち切れるものだと思う。児童虐待のテーマをまじめにしっかりと描ききった映画として、高く評価できると思う。
限られた予算の中で最低限必要なオープンセットを組み、マットペイントの背景と組み合わせたのに、時代的変遷はきちんと表現されています。平山監督の底力が発揮さ...
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